結納


常夏の国ガルガライス。
圧倒的な火の精霊力によって地域一帯が支配されているこの小国においては、ほとんど
全ての男女が、小麦色に焼けた健康的な肌の色を露出させ、礼儀に反せぬ最低限の衣類を
身に纏っている場合がほとんどである。
その開放的な国民性は、首都ガルガライスの街にも、その性格がよくにじみ出ていた。
未舗装のまま、海岸に向かって放射状に伸びる幾つもの大通りは、その道幅が通常の街の
およそ三倍以上はあり、裏路地ですら、馬車が並んで通れる程の道幅を持つところも
決して少なくないという。
南国らしい雰囲気を漂わせている椰子の木が大通り沿いに立ち並んでおり、色取り取りの
熱帯性野鳥が、街中であるにも関わらず、そこかしこの枝にその姿を見せていた。
そして街を形成する建造物の大半が木造建築であり、屋内に熱が篭もらないよう、椰子の
葉を用いた茅葺式の天井などで室温調整が工夫されている。
年間を通して晴天が多い地方ではあるが、雨量もそれなりに多い。
特に不意を打って降り注ぐ強烈なスコールなどは、ガルガライスにおいては一種の名物、
とも言える地位を確立しつつあった。
高温湿潤の気候の為、農作物が豊富であり、南国特有の甘い果実なども多く採取される。
どちらかと言えばおおらかな気風の国民性ではあるが、ガルガライス国軍兵の勇猛さは、
同じテンチルドレン内においてもその名を高く馳せており、同盟内最強兵力を誇っている
タラントですら、一目置く存在であった。
ガルガライスの王城は、街の沖合いに、半ば潮の中に浮かんでいるような形で建造され、
城壁の裾野は常に潮騒で洗われている。
干潮時のみ、街の海岸線から中央大通りにかけて繋がる登城路が出現する仕組みであり、
大海原を利用した自然の堀が四方を囲む格好になっている。
もちろん、海上からの寄せ手には苦戦を強いられる位置ではあるが、しかしながら、
ガルガライス水軍は精兵で知られ、そう容易く海上の城に敵が接近する事は出来ない。
と、ここまで書けば、このガルガライスの街とその周辺は常に安泰が維持されていると
思われがちになるのだが、実際はそうでもないらしい。
少なくとも、熱帯性ジャングルが周辺に広大な面積を張り巡らせている中に、無数に近い
恐るべき野獣や魔物の生態が、近隣住民の生活を大いに脅かしている事は間違いない。

冒険者カーク・マッティングリーは、数年ぶりに故郷ガルガライスの土を踏んだ。
これまで彼は、画商クリス・エステヴェスをパトロンに持つお抱え冒険者という名目で、
数々の遺跡調査や護衛任務をこなしてきているのだが、やっと一人前として認められ、
ひとり立ち出来る程度の実績と経験を積み重ねてきた頃合であった。
しかし、どちらかと言えばおっとりとした大人しい性格が災いし、我を張って自ら財を
求めるという発想がほとんど皆無であり、冒険者として旅立ってからこのかた、ほとんど
これといった財力を蓄える事が出来ていなかった。
カークがガルガライスに里帰りしたのは、別に本人がそう意図したからではなく、実家の
マッティングリー家が、彼を呼び戻したに過ぎない。
もともと、あまり自主性を持たずに、その日暮らしの昼行灯的な行動が多いカークだが、
今回のガルガライス帰還も、特にこれといった冒険のネタが無かった為、どちらかと
言えば暇潰しに近い格好で帰ってきた、というのが実情であった。
尤も、カーク自身には、何故マッティングリー家が彼を呼び戻したのか、その理由は全く
知らされていなかった。
大方のところ、両親が久々に息子の顔を見たい、などと考えたのだろうというのが、
カークの漠然とした予測であった。
が、蓋を開けてみると、それはとんでもなく甘い見方であった事が、後になって分かった。
ガルガライスはその国家気風から、あまり家格というものが重んじられない国であるが、
それでもカークの実家であるマッティングリー家は、それなりに由緒ある大家なのである。
そして冒険者カークは、本人はあまり乗り気では無いのだが、このマッティングリー家の
只一人の後取りでもあった。
つまりカークの現在の自由な境涯は、いずれ家督相続の際には失われ、堅苦しい社交界が
将来的に待ち受けているのである。
しかし、現マッティングリー家当主、つまりカークの父親は、一人息子の自由奔放さを
好む性格を熟知しており、その為、カークが成人して、大人としての分別をしっかりと
身に付けるまでは、敢えてカークに自由な行動を許していたのである。
そしてカーク自身もその事をよく踏まえている為、父親からの帰還指示を、むげに断る、
という事が出来なかったのである。
こうしてカークは、花嫁候補との初顔合わせに臨む事になったのだが、ここで思わぬ
事態が生じる事になる。

「結納」キャラデータ

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