戻る | TRPGのTOP | 次へ


白峰亭の若女将の名は、メメル・ビエドリンシュという。
人間女性にしては背丈のある方で、引き締まった筋肉と程よい肉付きが絶妙に調和しており、
かつては腕利きの戦士として活躍した体躯には、妖艶な色気が滲み出ていた。
酒に目が無く、酒こそが友というゴルデンでさえ、メメルの美貌としなやかな肉体美が醸し出す
色香の芳醇さには、二度目の顔合わせであろうとも、ついつい見惚れてしまった。
「あらドワーフのお兄さん、今度はどんな御用?」
カウンターの向こう側から頬杖をついて対応に出たメメルの口元に、僅かな笑みが浮かぶ。
決して媚びを含まないところが、この美貌の若女将の凄いところでもあり、同時に人物としては
容易ならざる相手でもあった。
「クリスタナというお嬢さんについて、聞きたい事がありましてのぅ」
ゴルデンは自分の声が大き過ぎないように、注意深くトーンを落としつつ、それでいて、決して
後ろめたい雰囲気を作らないように努めつつ、いきなり本題を切り出した。
普通、冒険者の店の一階酒場と言えば、昼間は照明が入らない事が多く、大抵は薄暗いものだが、
ここ白峰亭は異なり、北を除く全ての壁に明り取り用の窓が大きく開け放たれ、常にどこかから
陽光が射し込む構造になっている。
これはメメルの性格と方針によるものだが、昼夜を問わず、店内からは明るさを欠いてはならぬ、
というコンセプトのもと、いつでも鮮明な雰囲気が全体を支配していた。
その為、この店を訪れる者は、ついつい開放的な気分で言葉を交わす場合が多いのだが、この時の
ゴルデンは、そういった明るい空気を自らシャットアウトする事で、逆に店内の他の客達とは、
明らかに言動の差があらわれてしまう格好になった。
いくら声のトーンを落としても、逆に浮いてしまう形になってしまった為、余計に他の客達の
注目を浴びてしまう結果になってしまった。
クリスタナ、という人物名がゴルデンの髯面から漏れた時、他の冒険者達はお互いの顔を見合わせ、
事の尋常ならざるを、おのずと悟るに至った。
(まぁ仕方ないわいな)
内心ひとりごちつつ、ゴルデンはカウンターを見上げる格好で、メメルの言葉を待った。
腰まで届くブリリアントブロンドの髪を綺麗に結い上げている若女将は、小首を傾げ、しばらく
何かを考える素振りを見せたが、やがて記憶を整理するように、慎重な面持ちで形の良い唇を開いた。

「一週間ぐらい前だったかしら。街から徒歩で一日半ほど東の山中に踏み入ったところあたりに、
  古代王国期の遺跡に通じると思われる洞窟が発見されたっていう情報が流れてきてね」
アズバルチの郊外に住む樵の老人が発見したというその洞窟には、実際にある冒険者が足を運び、
古代王国期の地下遺跡に通じる痕跡があると判断したらしい。
「その冒険者さんは、えぇっと、確か、レイ・クラウザーっていったかしら」
この時ゴルデンは、ふと気になる事を思い出した。
クラウザーという名は、決して珍しい姓ではないのだが、確かファンドリアに名門の軍家として、
その名が中原からエレミア付近にまで広く聞こえていたのである。
闇隼セス・クラウザーは、ファンドリア西部方面軍の天才戦士として知られていたし、同じく
クラウザー家から出たレイ・クラウザーという人物は、銀雷の異名を取る若き名将として名を馳せ、
ファンドリア東部方面軍では右に出る者無しとまで言われた二刀流の使い手であったという。
そのレイ・クラウザーは一年程前に将軍職を辞し、現在は気楽な風来坊の境涯を楽しんでいるという
噂を耳にした事がある。
(まさかのぅ・・・恐らく同姓同名じゃろう)
話を、クリスタナに戻す。
レイ・クラウザーがもたらしたその情報にいち早く飛びついたのが、冒険者志向の強い彼女だった。
丁度、カウンター越しに洞窟の件をメメルに話していたレイ・クラウザーの言葉を、たまたま店の
一階酒場で友人と待ち合わせしていたクリスタナが耳に留め、素早く話に食いついてきたらしい。
「その洞窟について、あんた詳しく話を聞いたのかいのぅ?」
「ごめんなさい、実を言うと、あんまり真剣には聞いてなかったのよ。どうせそのクラウザーって
  人が探索しちゃうんだろうし、とか勝手に思ってて、情報の価値は無いかな、と」
メメルは申し訳無さそうに表情を曇らせ、うなじの辺りを軽く掻いた。困った時に見せる癖らしい。
実際のところ、レイ・クラウザーはその洞窟には手をつけなかった模様で、どうやら彼は彼で、
急ぎの用事があったらしく、洞窟の調査も、古代王国期の遺跡に通じるらしい、という部分までは
調べたものの、それ以上はさほどに興味を示す事もなく、そのまま放置してあったとの事であった。
「一度、そのレイ・クラウザーっちゅう御仁に会ってみにゃならんかのぅ」
「それなら問題無いんじゃないかな。昨日夕食にここへ来たんだけど、まだ郊外の森で野宿してる
  雰囲気だったわ」
なるほど、それは好都合である。
ゴルデンはほとんど迷う事無く、メメルに教えられた通り、アズバルチ北街門の外に広がる森へと
足を向ける事にした。

その頃テオとリグは、揃ってトランティニアン商工ギルド長宅を訪問していた。
面会相手はもちろんアスティーナである。
午後の穏やかな昼下がり、丁度お茶の時間という事もあって、二人は中庭のバルコニーへ通された。
当初、いきなり冒険者が訪れたという事で、応対に現れた中年のメイドは相当不審げな様子を見せて
二人を取り次いだのだが、アスティーナの方がリグをしっかり覚えていたらしく、ほとんど何の
滞りも無く、邸内へと案内されたのである。
長身で頑健な体躯のテオと、グラスランナーの平均身長前後のリグとでは、見た目からして、およそ
二倍近い体格差と身長差がある。
並んで歩くと、大人と子供と言うよりも、大人と乳児と言ってすら差し支えない。
それほどの差がある両名が、揃って真面目くさった表情を浮かべつつバルコニーに現れたものだから、
アスティーナはつい笑いを堪えるのに必死になってしまった。
尤も、リグ自身は自分の体躯が与える印象については、冒険者として街を飛び出した頃から自分でも
しっかり意識しているらしく、むしろこの小さな体格を、相手から緊張感を奪う道具として役立てる
余裕をすら身につけていた。
この時も、アスティーナの心に警戒心を与える事無く、すんなり話を通す事が出来た事に対して
満足感を覚えていたぐらいである。
「どうも、テオって言います」
リグ以上に、どこか子供っぽい仕草を見せる長身のテオは、これはこれで強烈な印象を残す。
幼児体型のリグの方が、遥かに大人っぽい雰囲気を持っている為、このギャップは鮮烈だった。
二人はアスティーナに促されてテラステーブルに席を与えられつつ、彼女手ずからの紅茶と茶菓子に
よるもてなしを受ける事になった。
アスティーナが純白の木椅子に腰を下ろし、一息ついたところで、リグが本題を切り出した。
「僕の推測をまず聞いて欲しいんだけど」
リグは、盗賊としての鋭い観察眼と推理力を発揮して仮説を組み立てていた。
この小さなグラスランナーの盗賊が思うに、クリスタナは冒険者チームを組んで、冒険者の真似事、
と言い切ってしまっては失礼かも知れないが、それに該当する行動に出たのではないか。
その事実を知った父ファジオーリは、クリスタナの護衛もしくは追跡をタイロン・キャロウェイに
依頼し、これを受けたキャロウェイは何らかの緊急事態を受けて、宿泊客であるリグ達には何の
連絡も残さずに、大慌てでクリスタナ達の後を追ったのではないか。
アスティーナ自身もファジオーリと同じ情報を掴んでおり、キャロウェイにクリスタナの無事を
守るよう重ねて頼みにいったが、既にキャロウェイは姿を消した後・・・というのが、目下のところ
有力な仮説である事を、リグは簡潔に語ってみせた。

実際、リグの推測は非常に高い精度で的中していたと言って良い。
「ファジオーリおじさまとキャロウェイさんは、小さな頃からとても仲の良いお友達だったそうです」
しかし、ここアズバルチでは、街の住民が冒険者としてアウトローの道に人生を踏み出す事は、半ば
暗黙の了解という形で、批判の対象になっている。
アズバルチ支配者としての立場を担うファジオーリにとって、キャロウェイと表立って親交を交わす
機会がことごとく失われた。
ファジオーリの中では、申し訳なさと、自分自身に対する悔しさが積年の恨みのように、鬱屈とした
感情を淀ませてきている。
その事実を、キャロウェイは誰よりもよく理解していた。
今回クリスタナの保護依頼を受けた際も、彼はその辺の事情を汲んで、街の住民にはなるべく
知られる事が無いよう、極秘裏にクリスタナを守る決意を固めていたという。
当然、クリスタナが冒険に出かけたという事実を街中に公表する事もタブーである。
アズバルチ支配者の血族が、住民の最も嫌う道へ歩みだそうとしている、などという風説が起これば、
ソルドバス家の影響力は雪崩のような勢いで失われてしまうだろう。
そして、キャロウェイのそんな心遣いを無駄にしない為にも、ファジオーリは今回の件に関しては、
徹底して知らぬ存ぜぬを貫き通す事にしたらしい。
恐らくファジオーリの心の中では、キャロウェイに対して拝んでも拝み切れぬ程の恩を感じているに
違いなかったが、表立ってその心情を吐露する事が出来ない。
そこでアスティーナが、僭越とは思いながらも、改めてクリスタナ達の事をキャロウェイに頼もう、
と考えていたらしいのだが、肝心のそのキャロウェイは、既に水鏡亭を後にしていた。
「クリスタナさんと一緒にパーティを組んだのは、どういう人達なんですか?」
「それが、私の聞いたお話では・・・」
テオの質問に、アスティーナの端正な面は、途端にひどく落胆したように曇った。
信じられない話だが、クリスタナと一緒に冒険者チームを組んだのはいずれも新学校の女学生ばかり、
というのである。
フロリス・ムラーキーとゲルダ・ニーデルという二人が、クリスタナの神学校で最も仲の良い有人で、
同じく冒険者に妙な憧れを抱いているのだという。
つまり、まだ世間知らずの令嬢三人が、冒険者を気取って危険な探索へ踏み出したというのだ。
「なるほど・・・そりゃ父親でなくても心配するよなぁ」
どちらかと言えば、半ば呆れた調子でリグは呟いた。
アスティーナも多少同意するところはあるらしく、溜息混じりに頷いている。

テオとリグにアスティーナが語ったように、ファジオーリは今回の件に関しては一切何も関与せず、
の態度を、強い意志で貫き通していた。
ソルドバス城に赴いたフォールスとルーシャオ、そしてガルシアパーラの三人は、堅牢な石造りの
城門脇の通用門で、まず老齢の門衛と悶着を起こした。
キャロウェイ失踪を理由に、ファジオーリ・ソルドバスに面会を申し入れようとしたのであるが、
ここで全く相手にされず、再三門前払いを食ってしまう始末だったのだ。
「おかしな話もあるもんだな。キャロウェイの失踪を聞いて、殊更に態度を硬化させる理由は何だ?」
通用門の扉をきつい調子で閉められ、途方に暮れているガルシアパーラとルーシャオの隣で、ただ一人、
フォールスだけは不審げな表情で腕を組み、考え込む様子を見せた。
「そのぅ、申し入れる内容に問題があったんでしょうかねぇ・・・?」
「クリスタナ嬢失踪の件について情報を握っている、とでも言えば良かったのか?」
フォールスはルーシャオに応じて口にした訳ではなく、単に、別の方法であれば、もう少しとりつく
島があったのかも知れない、と思案を巡らせ、独り言を述べたに過ぎない。
事情が事情だけに、懐に飛び込んでしまいさえすれば、たとえ相手がソルドバス家の当主であっても、
それなりに応酬する自信のあったフォールスであったが、こうものっけから締め出されてしまっては、
最早どうにもならない。
「君達の切り出し方に問題があったんだよ。そうに違いない。俺に任せてくれれば、きっと領主さんも、
  話を聞いてくれただろうに」
無責任に言い放ち、まるでなじるような目つきで二人を見るガルシアパーラを、フォールスは全く
眼中には無い様子で無視している。
そんな両者の間に流れる殺伐とした空気に、ルーシャオはどう対応して良いのか分からず、困り果てた。
陽光は、西の山々を形成する峰の連なりの上に傾きつつある。
多少、時間を無駄にしたという思いが無くも無い。
「よぅし、それなら出方を変えてやるか」
不意に、ガルシアパーラは何かを思いついた様子で決然とした表情を作り、再度通用門の扉を叩いた。
矢張り先ほどまでと同じように、硬い表情で対応に現れた門衛に、強い調子で何かを語りかけた。
するとどうであろう。
門衛は見る見るうちに険しい表情を作り、すっと通用門奥に顔を引っ込めたかと思うと、数秒後には、
数名の衛兵を連れて飛び出してきたのである。
「この不埒な連中めを捕らえるんだ!」
容易ならざる剣幕に、三人は追い払われるようにして、ソルドバス城前から逃げた。
よりにもよって、ガルシアパーラは、クリスタナが冒険者として巣立った事を街中に喧伝して欲しく
なければ、自分達を城に入れろと言い出したのである。

夕刻、ゴルデンはアズバルチ北街門から小一時間ほどの距離を、清流沿いに北上した森の中に居た。
蒼みがかった滑らかな銀髪を無造作に伸ばしている長身の人間男性が、拠点に使っているという
水車小屋をつきとめたのである。
レイ・クラウザーという名の冒険者は、水車小屋の炊事場で、夕食の準備に取り掛かろうとしていた。
「はて、俺にドワーフの友人などは居なかったと記憶しているのだが」
「では今日から友人としての記憶を刻んで頂く事を、切に願おうかのぅ」
突然の来訪に対して、レイ・クラウザーはさほど驚いた様子も、また気分を害した表情も見せずに、
立ち話も失礼だからと気を遣い、ゴルデンを水車小屋内に招き入れた。
見た感じ、二十代半ばから後半ぐらいの、切れ長の目が特徴的な美青年だった。
薄手の衣服に身を包んでいる為、全身を覆うしなやかな筋肉の束が非常によく目についた。
小屋の隅に積み上げられた藁の山に、冒険者としての装備一式が放り出されている。
鞘に納まる長剣と小剣、そしてロングコートのような形状を見せる柔らかな鎖鎧が、ゴルデンの
興味を強く引いた。
「あんたぁ、盾は使わんのかい?」
「盾なんざ持ち歩いてたら、荷物が多くて困るからな」
だから攻めに徹する戦闘スタイルを取っている、という。
ゴルデンは、その回答が暗に二刀流を意味していると解釈した。
「それで、俺にどういったご用件かな?まさか飯のにおいにつられてきた、なんて訳じゃあるまい」
「あんたが見つけた、遺跡に通じる洞窟について話を聞きたいんじゃ」
隠し事をしても意味が無いと判断したゴルデンは、今回の一件について、最初から筋道を立てて
説明したところ、相手のレイ・クラウザーは、わざわざ夕食の準備の手を止めて聞き入っていた。
「つまり、何だ・・・俺の雑談が、あんた達の夕飯に響いちまったって訳か」
「結果的にはそうなるかのぅ」
年齢の割には渋い声音を響かせるレイ・クラウザーだが、発想のしかたは中年に近いものがある。
ゴルデンは、相手が銀雷の異名を取るかつての名将かも知れないという疑問以上に、奇妙な親近感を
覚えてしまった。
レイ・クラウザーは手桶の水で両手を洗い流し、手近の古びた木椅子をがりがりと引いてきて、
背もたれに組んだ両手と、その上に顎を乗せるような格好で腰を下ろし、改めてゴルデンと向かい合う。
「あそこはなぁ、素人にはちっと向かねぇ場所だなぁ」
「ほほぅ。その心は?」
「これだよ、これ」
レイ・クラウザーは背もたれから上体を起こし、手の甲側をゴルデンに向けて、両手を自身の胸の前で
だらんと垂らす仕草を見せた。

「なるほど、それかいな」
ゴルデンもレイ・クラウザーを真似て、同じような仕草を取った。
お化けが出る、というのである。
「俺は阿呆臭くていちいち相手にしてられなかったんだが、今から思えば、せめて始末ぐらいは、
  つけておいてやった方が良かったかも知れねぇなぁ」
別段悪びれてもいなければ、申し訳ないという念も無さそうではあったが、その口ぶりから察するに、
彼の実力ならば、そのお化けとやらは簡単に処分出来る程度の代物であるらしい。
が、クリスタナ達やキャロウェイが相手ならば、どうか。
その点について問いかけてみると、案の定、レイ・クラウザーは端正な面を微妙に歪めて、
「さぁ、難しいんじゃないの?魔装具か魔術師か坊主のどれかは必要だろうなぁ」
クリスタナは大地母神の新学校に通う生徒ではあったが、神官としての訓練を受けているかどうかは、
いささか疑問が残る。
キャロウェイも、魔装具を所持していれば問題は無いのだろうが、それも確証は無い。
「あんたなら、そのお化けを軽く退治出来るんじゃなぁ?」
「まぁな。そこのデンジャラスビューティーは、幽体でもぶった切れる魔装具なんでね」
言いながら、レイ・クラウザーは顎をしゃくって、藁の山に放り出している長剣を無造作に示した。
「ところであんた、ここで何やっとるんじゃ?」
「・・・食っていくにゃあ、お銭が要るさ。お銭稼ぐにゃ、お仕事やんねぇとな」
ゴルデンの問いには、それ以上答える意思が無いのか、美貌の戦士はとぼけた表情で明後日の方向に
首を巡らせながら、ふわっと浮くような調子で木椅子から立ち上がった。
夕食の準備を続ける為に、かまどの前に立ったレイ・クラウザーの分厚い筋肉に覆われた背中に対し、
無駄だとは思いつつも、ゴルデンは助力を請う旨を述べた。
「手ぇ貸してくれる訳にはいかんかのぅ?」
「悪いが俺も財布ん中が厳しくてよ。先にこっち仕上げちまわねぇとなぁ」
「ちなみに、あんたの仕事っちゅうのは、あとどれぐらいかかりそうなんじゃ?」
「・・・まぁ、二、三日もありゃ終わんじゃねぇの?」
まるで、他人事のような口ぶりであった。
事実、ゴルデン達が抱える問題は、レイ・クラウザーにとっては他人事であるには違いない。

日が暮れる前に、一同は再び水鏡亭で合流を果たし、それぞれが持ち帰った情報を交換した。
尤も、ソルドバス城に出向いたフォールス、ルーシャオ、ガルシアパーラの三人に関して言えば、
情報と呼べるほどの成果は何一つ無かったのであるが。
一番収穫が多かったのは、矢張りレイ・クラウザーと接触を取ったゴルデンであったろうか。
彼は洞窟までの簡単な地図の他に、入り口付近に限定されてはいるものの、遺跡部の見取り図も、
レイ・クラウザーから入手してきたのである。
「徒歩で二日強の道程か。でも慣れない山道を考えると、三日弱は考えておいた方が良いかなぁ」
リグは、盗賊であると同時に、グラスランナーが生来身につけているレンジャーとしての能力にも
通じている為、街以外の場所に於いても、ある程度の見立てをつける事が出来る。
「正式な依頼を受けた訳じゃないけど、アスティーナさんから、もし可能なら、キャロウェイさんを
  手助けして欲しいとお願いされてるし、まぁ一応、行く理由はあるんだよな」
テオ自身は、クリスタナ達とキャロウェイを追って洞窟に向かう事については吝かではないようだ。
主人不在の薄暗い一階酒場で丸テーブルを囲んでいる六人のそれぞれの表情は、行くべきかどうか、
いささか迷いが生じているようにも見て取れる。
が、キャロウェイが早く戻らない事には、今後の冒険の種や、依頼の斡旋などにも不便が生じる。
そして何より、その洞窟の奥に繋がる古代王国期の遺跡の探索自体は、誰にも止められる理由は無い。
彼らは彼らで独自に探索し、あわよくば財宝を掘り出して一山当てる事の可能性だってあるのだ。
「問題は、そのお化けとやらだな」
いつもなら、この手の話題には率先して食らいつき、リーダーシップを発揮しようとする場面の多い
ガルシアパーラだったが、遺跡部に居座っているという魔物の存在を相当気にしている様子で、
落ち着き無く、全員の顔色を伺っているのが、リグには可笑しくてならなかった。
と、そこへ意外な客が現れた。
なんと、白峰亭の若女将メメル本人が、近所を散歩するような軽い調子で、水鏡亭にひょっこり顔を
出してきたのである。
ゴルデン以外は彼女とは面識が無い為、どこの美人が何の用で訪れたのか分からない様子で、誰もが
首をひねったり、お互いの顔を見合わせたりしていた。
「ちょっと、気になる噂を小耳に挟んだものだから、知らせにきたの。今回の件については、私も
  全く無関係じゃいられなくなっちゃったからね」
メメル曰く、蒼の朝霞亭に常泊している冒険者グループが、同様に例の洞窟の情報を聞きつけて、
昼過ぎに街を出たらしいとの事なのだが、問題は、その冒険者グループの面々が、以前は人さらいを
専門に山脈のふもとで横行していた野盗団の元団員達だというのである。
一同はメメルのこの情報に、不穏な気配を察した。


戻る | TRPGのTOP | 次へ

inserted by FC2 system