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モイセス達が朝食を終えるまでの間、キャロウェイを追う冒険者達も、空きっ腹を解消しておく
必要があった。
睡魔による疲労を、せめて食事によるカロリー摂取で少しでもやわらげておかねばならない。
が、保存食を携行しているのはルーシャオ、リグ、フォールスの三人だけで、残る三名は、街を出て
一日以上の行程を取るというのにも関わらず、保存食を一食分ですらも用意していなかったのだ。
実際、アズバルチでの情報収集から出発までの間には相当な時間があったにも関わらず、保存食を
用意してこなかったテオ、ゴルデン、ガルシアパーラの三人は、ただ洞窟に向かう事だけに意識が
集中し過ぎていたのか、移動の際の基本を完全に疎かにしてしまった観は否めない。
途中で食用となる植物や小動物を狩れば良いという甘い考えも頭の片隅にあったのだろう。
しかし現実は、徹夜での強行軍による疲労から、とても狩りや採集などをやっている余裕は無い。
結局のところ準備不十分の三人は、保存食を分けてもらう事で難を逃れたが、毎回この措置で
通るとは、必ずしも限らない。
ルーシャオとリグは、仲間だからお互い助け合う意識が大事だという考えの持ち主であった為、
嫌な顔一つ見せずに保存食を供したのだが、フォールスは矢張り今後の事も想定して、敢えて一言、
苦言を呈さずにはいられなかった。
「銀貨が無い訳じゃなかろうに。次も助けてやれる保証は無いぞ」
さすがのガルシアパーラも、疲労と空腹が相当堪えているのか、反発一つ見せずに、ただ黙って
うなだれている。
テオも矢張り同様にすっかり恐縮して、大きな体躯を申し訳無さそうな様子で小さくしていたのだが、
ゴルデンだけはまるでどこ吹く風の態度を崩さず、悪びれた表情も見せずに、さも当然のように、
ルーシャオが差し出した保存食を頬張っていた。
この辺の神経の図太さは、呆れるよりも、むしろ見習った方が良いのかも知れない、などと、テオは
本気で考える始末であったが、ともかくこの場は、フォールスの叱責に頭を垂れるのが精一杯だった。
そんな一同の光景を、モイセス達は面白そうに、嫌味な表情でニヤニヤと眺めている。
やがて、朝食を終えた一同は、洞窟への残りの行程を踏破する為に、出発の準備を始めた。
どちらかと言えば、一息入れ終わったモイセス達が出発準備を整えて立ち上がり、それに対して、
冒険者達が慌てて追いすがるような格好になったという表現の方が正しい。
少なくともこの時点では、モイセス側が全てに於いて主導権を握っていると言って良い。

「なんだ?お前達もついてくるつもりか?」
冒険者達の慌てぶりを嘲笑するように皮肉な笑みを湛えて、モイセスが顔も向けずに声だけで聞いた。
その横柄な態度に内心むっとしながらも、フォールスが一同を代表して応じた。
「お互い目的地は例の洞窟だろう?ゴブリンどもが遺跡を住処にしている可能性を考えれば、そこまで
  一緒に行って障害を排除したほうが効率が良かろう。その後の探索まで協力しようとは俺も言わんさ」
「協力?隷属の間違いじゃないのか?」
この痛烈な一言に、しかしフォールスは言葉を返すにも、適当なフレーズを見つける事が出来ない。
実際のところ、疲労度に関しては、モイセス達とフォールス達とでは雲泥の差があった。
首尾良く洞窟に到達し、そこで再びゴブリン集団と遭遇したところで、その時点でのフォールス達に、
戦う力が残されているかどうかは、甚だ疑問なのである。
下手をすれば、モイセス達がフォールス達を一方的に守る展開になるかも知れない。
そうなると、確かにモイセスが言うように、協力ではなく隷属という形を取らざるを得なくなる。
例の洞窟に至るまでに、果たしてフォールス達がどの程度の体力と気力を温存しておく事が出来るか。
まさにこの一点が今後の行動の全てを決定すると言っても過言ではない。
疲労による肉体のダメージは、治癒の法力では癒す事は不可能なのである。
「まぁ、好きにすれば良い。どう転んでも、俺達が有利なのだからな」
結局、モイセスは水鏡亭組の同行を拒む事は無かった。
「斥候は僕にやらせてよ」
なるべく良い印象を相手に与えておきたいという心理から、リグがやや疲れた表情を元気に励まして
そう申し出たのだが、モイセスはこれを一蹴した。
「徹夜明けで注意力散漫になってる奴に斥候なんぞ任せられるか。でしゃばった真似はやめとけ」
確かにこの拒否反応は、当然と言えば当然なのだが、疲労困憊の冒険者達に少しでも恩を売るという
明らかな意図が、モイセスの内にあるのは誰にでも理解出来た。
(これは・・・失敗したかも知れんのぅ)
内心ゴルデンが呟いたのも無理は無い。
これ以上差を離されない為に、そして仲間が分断される事を回避する為に、全員が徹夜明けの強行軍を
選択したのだが、これが結果的に、モイセス達から不要な恩を売られる結果になりはしないか。
冒険者稼業というものは、ある意味義理と人情のヤクザ稼業でもある。
もし仮に、モイセス達がキャロウェイやクリスタナに敵対する行為を取ったとしても、モイセスに
恩を売られた後では、下手に動けなくなるのではないか。
そんな懸念が、ゴルデンのみならず、他の水鏡亭組の面々の心をずっしりと重くし始めていた。
尤も、そこまで頭の回らないガルシアパーラだけは例外だったが。

大陸最大の山脈グロザムルは、各連峰の頂上付近は雪と氷に覆われた不毛の山脈であるという
印象が一般に強いのだが、中腹から裾野に至る一帯は、意外にも緑豊かな森林地帯で覆われている
範囲が広大に広がっている。
アズバルチは山岳小都市ではあるが、その周辺は常緑樹と落葉樹が交錯する形で分布する深い森が
大地を支配しており、峻険な山岳を連想させる岩場というものは、近郊面積の半分にも満たない。
峠を越える為の太い山岳街道が幹線道路として東西南北に走っているのだが、少なくとも街の周辺を
通る際には、豊かな緑の中を数日歩き続ける事になる。
中腹より上の、万年雪と氷に覆われた峻険へと向かう為には、数日から一週間を経る必要があった。
今、冒険者達やモイセス達が向かっている洞窟は、まだまだ深い森が支配領域を広げている中腹の
一角に過ぎず、さほどに過酷な環境という訳ではない。
ただ、季節が季節な為、樹間には純白の新雪が、目に沁みる程の強烈な銀光を放っており、空気も
ひんやりと冷たく、ともすれば徹夜明けで重くなりがちな瞼が、爽やかな山の冷気に当てられて、
力強く押し上げられるきっかけになる事もしばしばであった。
樹々の間隔は、広いところもあれば、異様に密集して生い茂っているところもある。
その為、同じ昼の時間帯でありながら、明るい陽射しの中を進む時もあれば、不気味な程に暗い
陰のカーテンの中を進む時もあった。
山が見せる、様々な表情の変化と言うべきであろう。
が、モイセス達についていくだけで必死になっている水鏡亭の冒険者達には、山の緑が新雪と一体に
なって演出する鮮やかな色彩を堪能するだけの余裕は、微塵も無かった。
最初にガルシアパーラが音をあげて、清流際の岩場にへたり込んだのは誰もが予想した事だったが、
その彼と同じく、ルーシャオも真っ青な表情で、下生えの間に座り込んでしまった。
「大丈夫?」
「ど、どうも・・・すみません、足引っ張っちゃって」
傍らにしゃがみ込み、オリーブ色の瞳で覗き込んでくるテオの端正な面に、ルーシャオは脂汗を
滴らせながら、空元気を押し出して精一杯笑ってみせた。
しかしいくら頑張って笑顔を見せたところで、肉体は正直である。
最早、誰かに肩を借りなければ、自力で立ち上がる事すら出来なくなってしまっていた。
それ見た事か、と言わんばかりの勝ち誇った笑みで、モイセス達が見下した表情を見せている。
太陽は、まだ南中を少し過ぎたところであり、陽が沈むにはまだ六時間程もある。
野営を張るには、あまりにも早過ぎるだろう。

「ネッロ、担いでさしあげろ」
モイセスの言葉に、彼の仲間の一人が愚鈍そうな面を縦に振って、のっそりと踵を返した。
この巨漢ネッロ・ゾルジは、モイセス達の中でも最年少の若者らしい。
テオを遥かに凌駕する2メートル近い巨躯の持ち主なのだが、その肉体構成要素を見ると、
半分は筋肉なのだろうが、残る半分は脂肪であった。
要するに肥満体質という事になるのだが、膂力も決して弱くはない。
起伏の少ない、のっぺりとした顔立ちから、巨大な壁という印象が強く、緩慢な動作もあって、
うどの大木のような存在に近い。
そんなネッロ・ゾルジが、モイセスに命じられるままにルーシャオに近づき、まるで大きな荷物を
担ぎ上げるように、無造作に引き摺り上げた。
テオが呆然とする隣で、ルーシャオはネッロの肩の上に力無くぶら下がっている。
「いや、その、大丈夫ですから・・・一人で歩けますから・・・」
遠慮がちに断りを入れようとするルーシャオであったが、立つ事も出来ない程の体では、まるで
説得力の欠片も無い。
「遠慮しなくても良いぜ。ちゃんと恩を売っておくからな」
モイセスのいやらしい程の不適な笑みに、フォールスは苦々しいものを感じながらも、疲弊した体に
鞭打って強行軍を続けた結果を、素直に受け入れざるを得なかった。
ガルシアパーラに対しては、モイセスの残る二人の仲間が、左右から抱え上げる形で肩を貸した。
デスモンド・ハヌバン、マメット・オカフォーというのがこの両名の名であったが、ネッロほどの
個性やインパクトは無い。
いずれも30歳前後の人間男性で、ハイエナのように小ずるそうな顔つきが、どことなく嫌悪感を
与える上に、声音もいささか卑屈な響きが感じられてならなかった。
矢張り、野盗団上がりの冒険者達だというのは、間違い無さそうである。
ルーシャオにしてもガルシアパーラにしても、本来なら彼らの仲間達であるテオ、ゴルデン、リグ、
そしてフォールスらが責任を持って肩を貸すなり担いでやるなりすべきであったが、いかんせん、
彼らも同様に、疲労が相当に蓄積しており、そこまでの余裕は欠片も無いのが実情である。
そして、モイセス達からは決して離れる事無く、洞窟に達したいという意図があるのもまた事実で、
この二つの要素を、逆にモイセスが巧く利用して、恩を売る事に成功したと言って良い。
件の洞窟に至るまでの駆け引きでは、結果として水鏡亭組が惨敗した。

一同が例の洞窟に到着したのは、そろそろ陽も暮れようとしていた夕刻の頃合であった。
多少、予想外の展開が冒険者達を待っていた。
「お前さん達は・・・」
水鏡亭の主人、タイロン・キャロウェイその人が、洞窟前の開けたスペースに陣取り、荷物の整理を
しているところに遭遇したのである。
水鏡亭組にとっては、いきなり目的を達成した事になった。
40代半ばの、頑健な体躯と引き締まった面の、まさに冒険者らしい外観の人物で、赤銅色の肌で
盛り上がる筋肉の束は、今でも十分現役として活躍出来る事を勇壮に物語っていた。
「親父さん、探しましたよ」
テオが心底嬉しそうな笑顔で、疲れた足を引っ張りながらキャロウェイに駆け寄ろうとしたのだが、
しかしモイセスがその間に割ってはいる格好で、キャロウェイの前に進み出た。
「この連中は、あんたの知り合いか・・・見ての通り、ここまで無事に送り届けてやったぜ」
言いながら、ネッロに担がれているルーシャオと、デスモンドとマメットに肩を借りてやっと
立っているガルシアパーラを、顎でしゃくって示した。
だがそもそもキャロウェイとしては、彼ら水鏡亭の宿泊客達がここまで足を伸ばしてきた真意を、
測りかねている様子であった。
ここで、ガルシアパーラの登場である。
彼はモイセス達の前であるにも関わらず、これまでの経緯を余すところなく、全て喋り尽くしたのだ。
いつもなら、他の面々が力ずくで押さえ込むところだが、誰にもそんな気力体力は残されておらず、
得意満面のガルシアパーラの、完全な独壇場と化した。
もちろんモイセス達は、アスティーナの存在をここで初めて知り、そして更に、アスティーナが
リグやテオに語った内容も、貴重な情報として得る事が出来た。
これは、モイセス側にしてみれば、何よりも大きい収穫であった。
さすがにキャロウェイも、渋い表情である。
多少なりとも言葉を濁すか、或いは表現を変えて、モイセス達に全ての事情を悟られないように
するのが優れた弁舌家と言うべきところだが、ガルシアパーラは一切がっさいを喋り尽くしたのだ。
こんな馬鹿がうちの宿泊客だったのかという苦い思いが、キャロウェイに僅かな頭痛を引き起こした。
「そうか、それは随分心配をかけたな。申し訳ない」
宿泊客を放り出して、店の主人としての務めを果たさず、一人クリスタナ捜索に赴いたのは事実である。
その点に関しては、キャロウェイは素直に詫びた。

全員が一通り事情が飲み込めたところで、テオが素朴な疑問を口にした。
「ところで、親父さんはここで何を?」
キャロウェイはこの問いに、答えるべきかどうか相当に迷った。
が、既にガルシアパーラは一切の経緯をモイセス達に語って聞かせてしまった以上、今更隠し事しても
まるで意味が無いと判断した。
「実を言うとな・・・どうもクリスタナ達は、まだここには来ていないようなんだよ」
この返答には水鏡亭組のみならず、モイセス達にも軽い驚きを覚えさせた。
「それは・・・どういう事だ?」
思わずモイセスも身を乗り出して聞いた。
洞窟前の、粘土質の地面が剥き出しになっている空間で焚き火の準備を進めながら、キャロウェイは
再び渋い表情を作って小さくかぶりを振った。
「わしにもさっぱりだ。だが少なくとも、クリスタナ達はまだ、この洞窟にも、そしてその奥にある
  遺跡にも足を踏み入れていない。彼女達の足跡その他の痕跡は、一切残されていなかったからな」
キャロウェイ程のベテランが言うのだから、恐らく間違いは無いのだろう。
では、クリスタナ達は今、一体どこに居るというのだろうか?
「どんなに遅く見積もっても、クリスタナ達はわしより一日は早くアズバルチを出た。つまりだ、
  街を出てから既に丸二日以上経ってるというのに、彼女達はここには到着していない事になる」
淡々と状況を分析するキャロウェイに、誰一人として余計な口を挟む者は居ない。
だが、彼の角ばった顎が動きを止めたところで、まずリグが意見を上げた。
「道に迷ってる、って事は無いかなぁ?」
しかし、アズバルチ周辺地理にはことのほか詳しいクリスタナが、そうそう道に迷うとは考えにくい。
「まさか・・・あのゴブリン達に遭遇しちゃったのでは・・・」
最も考えたくはない推測ではあったが、ルーシャオはパーティの頭脳である魔術師である以上、全ての
可能性を網羅する必要から、その恐るべき一言を口にした。
が、これに対しては、キャロウェイの方から意外な反応が返ってきた。
「ゴブリン?何だそれは?」
驚いた事に、キャロウェイはあのゴブリンの大集団とは遭遇しておらず、明け方の大集団戦闘の件は、
全く知らなかったという。
では、冒険者達が遭遇したのは、たまたまだったのだろうか?
否、あれほどの規模のゴブリン集団である。あの経路を通れば、普通は何か形で接触する筈だろう。

不意にゴルデンが、急に何かを思い出したように両手を軽く打った。
「いや、ちと待てよ・・・もしかしたら・・・」
レイ・クラウザーはゴルデンに、まだ見ぬ古代王国期の遺跡と、それに通じる洞窟に関する
情報を惜しみなく披露してくれたのだが、実はその話には、続きがあった。
「確か、この遺跡に入るには、ここから洞窟を抜けるルートの他にもう一つ、鳳石の断崖から
  崖穴に入るルートがあるとか言うておったな。もしや・・・」
鳳石とは、アズバルチの街から見て丁度北の方角へ一日ほど向かった断崖の上にそびえている、
その名の通り、鳳が大きく翼を広げているような形の巨石を指す。
だが、クリスタナ達女学生程度が挑むには、その鳳石の断崖はあまりにも過酷であり、そこそこ
経験を積んだ冒険者ですら、一歩間違えば命を落とすような危険極まりない魔境なのである。
クリスタナ一人ならまだしも、彼女の二人の級友も同伴している事から、いくら何でも、鳳石に
向かう事は無いだろうとたかをくくっていた。
そもそもレイ・クラウザーにしても、鳳石の断崖から件の遺跡に入れる事は、白峰亭のメメルには、
一切話していないのだ。
だからこそ、ゴルデンはクリスタナ達はセオリーにのっとって、洞窟からの突入を試みたと考えた。
しかし今になって思えば、街の支配者であるソルドバス家の令嬢が、その程度の情報を握るのに、
さほどの労力を要するとは思えない。
最初の発見者である樵は、鳳石の断崖からのルートも知っていた可能性が高い。
クリスタナ達が遺跡の情報を集めていく過程で、鳳石の断崖にいきついた事も否定出来ないだろう。
「しかし、それはあくまでも可能性の問題だ。もしかしたら、別の事情で単純に遅れているだけ、
  なのかも知れない」
キャロウェイはさすがに冷静だったが、その黒い瞳には若干焦りの色が見え隠れしている。
ちなみに鳳石と言えば、丁度レイ・クラウザーが『仕事』をこなしている範囲の中にあるらしい。
ここで、ネッロの肩から下ろされて地面にへたり込んでいたルーシャオが、モイセスの表情に
変化があらわれている事に気づいた。
レイ・クラウザーの名前が出たあたりから、妙に緊張している様子である。
いや、モイセスだけではない。彼の仲間達三人も、同様に顔色が青ざめ、今までの、人を小馬鹿に
し続けてきた態度とは、まるでうって変わって、恐怖しているようにも見えた。

それはともかく、今後どうするか、である。
もう既に日は暮れている。
この時間からクリスタナ達を捜索する為に、夜の森を歩き回るのは、危険が余りにも大き過ぎる。
明け方に激闘を演じたあのゴブリン大集団が、今どこに潜伏し、或いは布陣しているのか、皆目
見当がつかないのである。
もし、単純に行程が遅れていた場合でも、クリスタナ達とて、夜の森を進む危険ぐらいは考慮し、
どこか安全なところで野営を張っている事だろう。
だがもしゴルデンの推測したように、クリスタナ達が鳳石に向かっていたならどうだろう。
その場合、既に彼女達は遺跡内部に突入している可能性もあり、キャロウェイ達としても、ここで
夜を明かして体力を回復させてから、そのまま洞窟に突入するという選択肢も考えられる。
「あのゴブリンどもと、親父さんが全く何の遭遇もなかったというのも気になるところじゃのう」
メメルがテオに語ったところでは、妖魔などの魔物や野生動物などと遭遇するにしても、せいぜい
冒険者グループ単位で対処出来る程度だという話だった。
しかしあのゴブリンの大集団は、そんな規模を遥かに凌駕していた。
つまり、メメルですら予測し得なかった大集団と接触した事になるのである。
「こう次から次へと予想外の事態が発生すると、最早自分達の経験や常識なんてものは、ここでは
  通用しないと考えるべきなのかも知れんな」
焚き火の火を起こし終えてから、キャロウェイは思慮深げに呟いた。
「ま、あんたの都合は俺達には関係無いからな」
それまで、じっと黙り込んで何かを考えている様子だったモイセスが、何か意を決したような、強く
確かな足取りで洞窟へと向かい始めた。
ネッロ、デスモンド、マメットの三人も、殊更に表情を消してモイセスの後に続こうとする。
「入るのかね?」
「まぁな。暗いのは、外も中も一緒だ。それなら、まだ疲れていないうちに、少しでも早く行動を
  起こすべきだと判断したんでね」
明確な意思をもってキャロウェイに答えるモイセスの言葉に、残る三人も静かに頷き、モイセスに
付き従う意図を持っている旨をはっきりと示した。
「そいつらは、俺達がここまで運んでやった恩を受けている。何かあったら、あんたからも一言、
  筋を通すように言って聞かせておいてくれ」
「・・・良いだろう。俺の客に、人道を外れる馬鹿は居ないと信じている」
キャロウェイがそう受けあった事で、冒険者達はますます苦しい立場に立たざるを得なくなった。


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