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アレクラスト大陸東部、草原の大国ミラルゴと、聖王国アノスを隔てる大陸屈指の
超巨大山脈グロザムルには、地図には記されていない、大小数百にも及ぶ湖沼が点在している。
水辺には人の生活が成立する要素が多数混在しており、特に山脈標高から見て中腹以下の地域には、
数々の村落や街が形成されている。
それらの村落・街は、ほとんどがミラルゴ、アノス、オランなどの属領として統治されているが、
中には土着の豪族が周辺各国から爵位を与えられる形で自治権を保証されている街などもあり、
その統治形態は実に様々であった。
グロザムル山脈西南部に位置する湖畔の山岳小都市アズバルチは、古豪ソルドバスが、古代王国の
崩壊直後からこの地方一帯の主として支配してきた象徴都市であり、透明度の高いパエンタ湖と、
その湖面に古い街並みが鏡のように美しく映える歴史街道の一面をも持ち合わせていた。
年間を通じて四季の変化に乏しいが、冬の大寒だけは極端な程の寒波と着雪に悩まされるという。
アズバルチの住民総人口はおよそ千人を僅かに下回る程度であるが、グロザムル山脈南西部の
中腹を東西に貫く峠街道の拠点という事もあり、主に交易中継点として栄えてきた。
パエンタ湖に注ぐ二つの清流と、裾野へと流れ落ちる太流のそれぞれに、古い石造りの水門や
石橋などが架けられており、その秀麗さは都市部からの観光客を呼び込む要因の一つとなっている。
つまり、東西の商人や買い付けのバイヤー、或いは東西南北様々の土地から訪れる観光客達の
交差ポイントという側面が極めて強い街なのである。
しかし一方では、街の住民は決して外には出たがらない一種の閉鎖意識で凝り固まるという傾向も
顕著に見られ、開放性と閉鎖性の矛盾が奇妙に両立するきわどさに彩られていた。
また同時に独特の山岳信仰が深く根付いている宗教都市でもあり、聖王国アノスの至高神信者との
融合・融和が、近年の課題として認識されるようになっている。
人の出入りが激しい街という事実は、同時にトラブルや冒険の種の宝庫でもあるという事に繋がる。
その為アズバルチには山岳小都市という地理関係と街そのものの規模にも関わらず、冒険者の店が、
実に三軒もの数に至っており、どの店にも常に手持ち無沙汰の冒険者や流れの傭兵などが、飯の種が
転がり込んでくるのを、気長に待ち続けるという光景が日常化していた。
アズバルチ出身の冒険者も、決して少なくない。
特に冒険者の店『水鏡亭』は、アズバルチ出身の元冒険者タイロン・キャロウェイが経営している事も
あってか、彼を目標に掲げてアウトローへの道に足を踏み出す若者達の、格好の溜まり場となっていた。
その水鏡亭で奇妙な変化が顕わになったのは、雪がちらつき始める初冬の冷たい朝の事であった。
店の主人タイロン・キャロウェイが、突如として謎の失踪を遂げたのである。

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