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翌朝、水鏡亭一階酒場のカウンターでは、冒険者の店としての業務開始前の空き時間を利用して、
キャロウェイと冒険者達が顔を突き合わせていた。
本日以降の行動について、お互いの意識をすりあわせておく為の会合である。
尚、この場にはガルシアパーラは同席していない。
彼の精神か肉体に、何らかの術が施されている以上、情報漏洩防止の観点からも、今回の一件に
関する情報は一切シャットアウトしておく必要があったからだ。
「ひとまずわしは、グラッフェンリード邸での求人に応じるつもりじゃ。その間、申し訳ないが、
  親父さんにはガルシアパーラ辺りを守ってやって欲しいんじゃがな」
しかしゴルデンのこの言葉に、キャロウェイは渋い表情でかぶりを振った。
「監視する程度なら問題無いが、俺は見ての通り、この状態だからな」
言いながらキャロウェイは、カウンターのスツールに腰掛けたまま、自身の背中辺りを親指で軽く
指差す仕草を見せた。
この時点でようやく、ゴルデンはキャロウェイがまだ手負いの身である事を思い出した。
そもそも彼ら冒険者達が水鏡亭の業務をも兼ねるような事態に追い込まれたのは、ガルシアパーラが
キャロウェイに決して軽くはない傷を負わせた事がそもそもの発端だったのである。
「ああ、そうじゃったな。すっかり忘れておったわぃ。そりゃ無理な相談じゃったな」
ゴルデンは、何ともばつの悪そうな表情で、顎の辺りを掻きながら続けた。
「まぁとにかく、グラッフェンリード邸にはわし一人で潜り込む。リグが外から見ててくれる、
  っちゅう事じゃから、さほど心配はしておらんがの」
「一人ではないぞ」
不意に、入り口の跳ね扉が開き、朝のひんやりとした空気が流れ込んでくる気配と共に、鋭利な
刃物を思わせる凛とした声音が一同の注目を奪った。
昨日、件の人材仲介業者を訪問した際の、田舎娘然とした衣装で、エナンがそこに立っていた。
「私もグラッフェンリード邸に潜入する事にした。但し相手が相手だ。神殿警察からの表立った
  バックアップは無いと思わねばならん」
トレードマークの眼鏡を外していると、どこか表情にゆとりが無いようにも見えるエナンだが、
その冷静さと落ち着いた態度は、矢張り敏腕捜査官のそれである。
「ところで、イネス隊長を頼るのは可能かいの?」
ゴルデンとしては、官憲隊の若き隊長の人柄に頼りたいところであったが、これにはエナンが
明確な拒絶の態度を示した。

「彼は官憲隊とは言っても、ソルドバス家からの給金を受けている。相手がブジェンスカ家と
  対立する構図にあるグラッフェンリード卿である以上、ソルドバス家関係の者を巻き込むのは、
  色んな意味で拙い」
当主ファジオーリがブジェンスカ家との距離を置こうとしている事を考えても、ここで下手に、
イネスを巻き込んでしまうのは、ソルドバス家にとっても、そしてイネス本人にとっても、様々に
困難な状況を作り出してしまう危険性が高い、とエナンは言うのである。
ゴルデンとしても、彼女の論を覆せるだけの理論武装が無く、少なくともこの場は、エナンの
主張を容れるしかなかった。
いつもの陽気な表情が一転し、渋々とエナンの意見を受け入れて頷くゴルデンを尻目に眺めつつ、
その傍らでルーシャオが努めて明るい声音で話題を転じた。
「じゃ、僕はブジェンスカ家別荘の方に潜り込みますね。こっちにも誰か補助を入れてくれると
  本当は嬉しいんですけど・・・」
しかし、ルーシャオのそんな淡い願望は、この場の誰にも届かなかった。
テオにしろフォールスにしろ、生憎クリスタナの行方を探す事しか考えていなかったようで、
ルーシャオがブジェンスカ家別荘でどのような潜入行動を取るのかという点に関しては、まるで
関心が無いようであった。
これには、さすがにルーシャオも精神的にへこんでしまった。
「悪い、ルーシャオ・・・やっぱり、クリスタナさんの行方が気になって仕方がないんだ」
「右に同じ。お前なら放っておいてもさほど問題無いが、あのお嬢さんの身に何かあったら、
  巻き込んだ俺達の責任は途方も無く大きい」
テオの言い分はまだルーシャオに気を遣っている部分があったが、その後にフォールスが続けた
比較論に、ルーシャオは半ば打ちのめされる気分だった。
要するにフォールスは、ルーシャオはどうなっても良いから、とにかくクリスタナを無事に
見つけ出す事の方が重要だと言っているのである。
冒険仲間という意識が露骨に欠如しているような言い草であった。
そんなルーシャオを慰めようとしたのか、カウンターに腰掛けていたリグが、細面の美青年の
肩をぽんぽんと叩き、底抜けに明るい笑顔で言った。
「そんな気に病むなよぉ。骨ぐらい拾ってやるからさぁ」
慰めどころか、むしろ追い討ちにしかなっていなかった。

やがて一同は軽めの朝食を済ませた後、水鏡亭の業務に戻るか、或いは早速行動を起こす為に、
大通りへと飛び出していった。
仲間達から半ば見捨てられた格好のルーシャオは、いささか涙目になりながら、落ち込んだ表情で
白峰亭へと足を伸ばした。
レイ・クラウザーが、毎朝の朝食を白峰亭で済ませている事を知っていた彼は、出来る事ならば、
あの美貌の凄腕冒険者から、たとえ僅かでも、ブジェンスカ家別荘に関して、何らかの情報を
引き出す事が出来れば御の字だと考えていたのである。
果たして、レイ・クラウザーはまだ人影がまばらな白峰亭一階で、朝食にありついていた。
ただ、その量が半端ではない。
丼飯を朝っぱらから三杯も平らげるという途方も無い量に、元来が小食なルーシャオにとっては、
見ているだけで思わず気分が悪くなりそうな光景だった。
「よぉどうした?水鏡亭の方は、ほったらかしで良いんかい?」
ルーシャオが、古今珍しい現役冒険者兼冒険者の店従業員という身分である事を、この美貌の
超戦士は既に知っていた。
愛用の魔装具を同じ丸テーブルの木椅子に無造作に積み上げている為、ルーシャオに対しては、
その反対側の木椅子を勧めた。
「実は僕、ブジェンスカ家別荘の求人に応じてみようかな、って思ってるんです」
「例の件でか。奇遇っちゃあ奇遇かも知れんが、実は俺も昨夜、先方からまた依頼があってなぁ。
  今日から明日の夜ぐらいまで、お前さんと一緒んとこに寝泊りする事になったんよ」
これには、ルーシャオは驚き半分、嬉しさ半分で思わず小さな声をあげた。
「その、依頼って、どんな内容なんですか?」
「さぁねぇ。よくは聞いてねんだけど、どうせまた、くだんねぇ事なんじゃねぇかな」
但し、今回は前回とはいささか様子が異なるという。
その証拠に、昨晩レイ・クラウザーに連絡を取り付けてきたのは、ブジェンスカ分家の中でも、
相当な権力を握っていると思われる筆頭執務官本人だったのであるという。
恐らく、ブジェンスカ分家にとっては、レイ・クラウザーの力量を把握した上で、何らかの重要な
案件を依頼する意図があっての事だろう。
少なくとも、ルーシャオはそのように判断した。
このタイミングでブジェンスカ家別荘に潜り込むのが、吉と出るか凶と出るか。

一方、失踪したクリスタナに関しては、不気味な程に情報が出てこなかった。
フォールスとテオは、まず最初にキャロウェイに対し、ソルドバス家の方から、クリスタナの
行方に関して何か言ってこなかったかどうかを確認したのだが、意外な事に、キャロウェイの
耳にも何も入っていないらしかった。
さすがに心配になったキャロウェイも、昨晩、個人的にファジオーリを訪ねて問いただしたところ、
ファジオーリは苦虫を噛み潰したような表情で曖昧な言葉を繰り返すばかりで、あまりこの件には
触れたくなさそうな様子を見せていたという。
「ソルドバス家の当主は、クリスタナさんの行方について、何か知ってるって事かな」
「全部が全部を知っているとは限らんが、少なくとも、あまり芳しくないような内容を把握しては
  いるだろうな」
テオとフォールスの両名は渋い表情を作りながら、アズバルチ商工会議所へ向かう大通りを、肩を
並べて歩いている。
クリスタナの行方について、アスティーナが何か知っていないかどうかを確認する為であったが、
しかしあまり期待はしていない。
以前、クリスタナが級友二人と行方不明になった際、アスティーナはわざわざ水鏡亭に足を運び、
捜索と救出を頼み込んだという経緯がある。
それほどクリスタナの身の上を案じる彼女が、今回の行方不明で何も動きを見せないというのは、
つまりアスティーナがクリスタナ失踪の事実を知らないか、或いは全ての事情を知った上で沈黙を
通しているかのいずれかであろう。
どちらにしても、フォールスはあまり有用な情報が引き出せるとは思っていなかった。
むしろ、仮に前者だった場合、彼ら二人はアスティーナに対し、余計な心配事を伝える役目を担い、
ある種墓穴を掘る格好になってしまうのである。
そして、悪い方の予感が的中してしまった。
昨日と同じく、地味なお役所風の事務員姿で応対に現れたアスティーナに対し、フォールスが
静かな口調でクリスタナ失踪の件を告げると、いつも温厚で冷静な大人の対応を見せる彼女が、
この時ばかりはすっかり度を失い、哀れな程に狼狽してしまったのである。
自他共に地獄耳を認めるアスティーナが、幼馴染の失踪を知らず、その行方も分からないとなると、
それこそ本当にクリスタナは完全な行方不明だという事になる。
アスティーナが取り乱すのも、無理はなかった。

結局、テオとフォールスからクリスタナ失踪の情報を聞かされたアスティーナは、仕事に全く
手がつかなくなり、くれぐれも幼馴染の事をお願いしますと何度も頭を下げ、それから後は、
どこか浮ついたような表情で、自宅に引き篭もってしまった。
「何か・・・悪い事しちゃったかな」
「クリスタナを無事に見つける事が出来たら、侘びを入れに行くか」
アズバルチ商工会議所を出てから、テオとフォールスは訪問前よりも更に渋い表情で、この思わぬ
展開に頭が痛くなる思いを抱いていた。
こうなってくると、クリスタナの級友に対して、馬鹿正直に彼女の行方を問うのは、いささか
問題があると判断し、マーファ神学校へ向かう予定をキャンセルした。
「一通り聞き込みしてから、リグの方にも顔出してみるか」
「分かった。じゃ、後で落ち合おう」
この後、二人は一旦別れて、それぞれの足でクリスタナの行方に関して聞き込みを始めた。
が、見事な程に消息が分からない。
クリスタナぐらいの有名人になれば、彼女の顔を知らぬ者は居ないから、ちょっとでもおかしな
噂が立てば、すぐにどこかで話題が持ち上がりそうなものなのだが、それらしい話は一切無い。
むしろ、テオとフォールスが聞き回る事でクリスタナ失踪の噂が街のそこかしこで走り出し、
彼ら二人が広告塔と化している観すらあった。
夕刻になって、テオがフォールスよりも一足先にリグの潜伏する空き家に顔を出してみると、
この陽気なグラスランナーは、珍しく目くじらを立てて険しい表情を作って出迎えてきた。
「あのさぁテオ・・・ちょっと拙いんじゃないかい?」
「ん?何が?」
一瞬テオは、リグが何故これほどの剣幕で非難してくるのかが、理解出来なかった。
「だからさぁ・・・テオとフォールスが二人して、クリスタナさん失踪をあちこちで喧伝してる、
  って事がだよ」
そんなつもりは頭になかったテオだけに、リグのこの指摘には正直、相当面食らった。
クリスタナ失踪の噂が街中で囁かれる度合いが高まる程に、当主ファジオーリが何も手を講じて
居ないという悪評が立ち、ソルドバス家に対するアズバルチの住民感情が悪くなるのである。
そういった辺りを考慮出来ないのは、矢張り一介の冒険者に過ぎない彼らの、思考の限界である、
と言わねばならないだろう。

しかし、そもそも彼ら冒険者達がクリスタナ失踪の情報を知ったのは、どういう経緯だったのか。
その答えは簡単で、リグが盗賊ギルド・アズバルチ支部の世話役から仕入れてきたのである。
だが奇妙な事に、そこから先、アズバルチの住民には、この事は一切伝わっていなかった。
噂すら立っていなかった事を考えると、完全な情報規制が敷かれていたのではなかっただろうか。
実際、アスティーナも知らなかった。
今から思えば、それも頷ける話であろう。
「もしかしたら僕達、何者かに踊らされているんじゃないかな」
「つまり・・・それは、敵って事かい?」
若干打ちのめされた様子で、テオは窓際で昼下がりの街並みを凝視しているリグに反問した。
「うん。今の時点でソルドバス家が動いていないのは、もしかしたら動けない何かの事情があった。
  けど僕達が、クリスタナお姉さんの失踪を喧伝した事で、更にソルドバス家の立場を悪くした。
  これで今更ソルドバス家がクリスタナお姉さんの捜索に着手しても、悪評は残るよね」
リグの推測を呆然と聞きながら、テオはまさか、と小さく呟いた。
恐ろしく政治的陰謀に長じた何者かが、テオ達とソルドバス家の関係を把握した上で、何らかの
目的を持って、このような策を講じてきた、というのであろうか。
「ソルドバス家の立場を悪くして喜ぶ者は一体誰か?というところから考えた方が良いかもね」
「・・・グラッフェンリード卿か、ブジェンスカ本家のいずれか、か」
リグとテオは、声の主の方に視線を巡らせた。
フォールスが憮然とした表情で、空き家の階段口に佇んでいる。
矢張りリグと同じく、盗賊ギルドに属する彼は、情報源が盗賊ギルドだからと半ば安心していたが、
そもそも何者かが、アズバルチ支部のお粗末な情報力を利用して、逆にこちらを躍らせるような
情報戦を仕掛けてきた可能性も、十分に考えられる。
今になって、その事に思い至ったフォールスであった。
「いずれにしても、この情報戦を仕掛けてきた相手が、ユニコーンの角を隠し持っている相手だ、
  と仮定しても、そう大きく外れてはいないだろう」
「だろうね・・・ところで、あの三人は?」
リグが聞いたのは、グラッフェンリード邸の求人に応じたゴルデンとエナン、そして同じく、
ブジェンスカ家別荘の求人に応じたルーシャオら三人の事である。
既にこの時点で、彼らの雇用の合否が出ている頃である事は、リグも承知していた。
答えたのはフォールスである。
「三人とも、無事に採用された。もう今頃は、それぞれの配置についている頃だろう」

アズバルチ郊外の湖畔に佇むブジェンスカ家別荘は、その外観に負けず劣らず、内装は実に豪奢で、
思わずルーシャオが目を輝かせてしまいそうな、珍しい石材を用いたレリーフなどで飾られていた。
が、自分の趣味ばかりに気を取られていては、任務を果たす事が出来ない。
ここはぐっと我慢だ、と自分に言い聞かせながら、ルーシャオは新米の使用人として、先輩達からの
指導に、真面目に従っていた。
仕事内容は、極々一般的な、別荘管理の雑務その他庶務であった。
恐らく、ルシアンが殺された事で単純に人手が足りなくなっただけであろう。
ルーシャオに対して、特にこれといった特別な仕事が課される訳でもなく、最初のうちは、他の
先輩使用人達の後にくっついて、見よう見まねで雑務に着手するしかなかった。
しかし、そんな退屈な使用人業務の中で、夕刻の休憩時に、状況を一変させる情報がもたらされた。
与えられた自室(ちなみに、先日までは故ルシアンが使用していたらしい)で一息ついていると、
思いがけぬ事に、レイ・クラウザーがさりげない様子で訪問してきたのである。
「よぅ、頑張ってるみたいだねぇ」
驚いた様子のルーシャオに、美貌の超戦士は相変わらず呑気そのものの笑顔で、ずけずけと室内に
足を踏み込んできた。
慌てたのは、ルーシャオの方である。
「ちょ・・・ちょっと、拙くないんですか?どう見ても、何の接点も無い僕達なのに・・・」
「まぁ、気にするこったぁ無いんじゃねぇの?どうせ誰も気づいてねぇって」
いかにもレイ・クラウザーらしい、実に大雑把な思考法であった。
が、後でルーシャオが使用人諸氏の間で交わされる会話を盗み聞きしたところ、矢張り誰も彼らの
関係には気づいていない様子であった事を付記しておく。
「実は俺が受けた依頼なんだがよ、お前さんとこの問題と関係大ありなんで、教えに来たったのさ」
レイ・クラウザーがルーシャオに説明した依頼内容は、確かに、驚きを伴うものであった。
ブジェンスカ分家が課した任務、それはクリスタナ救出、という意外過ぎる程に意外なものだった。
「ちょ・・・ちょっと待ってください!それじゃ、ブジェンスカ分家側は、クリスタナさん失踪の
  件だけじゃなく、真相まで握ってる、って事なんですか!?」
「さぁどうだろうな?けどよぉ、少なくともあのお嬢さんの居場所は把握してるみたいだな」
更にレイ・クラウザーは、一緒に来るかい?と一応ルーシャオを誘ってはみた。
が、潜入早々、ブジェンスカ家別荘を抜け出してしまって良いものかどうか、ルーシャオにとって、
ここは大いに悩むところであった。

一方、グラッフェンリード邸への潜入に成功したゴルデンの方では。
(こりゃあ、初っ端から拙い事になったわい)
臨時に与えられた使用人部屋で、一人頭を抱え込んでしまう事態が出来していた。
あろう事か、エナンの正体が見抜かれていたのである。
彼女はゴルデンと一緒に、グラッフェンリード邸の裏口から案内されて、邸内に入った。
その直後、グラッフェンリード卿の私兵に左右を挟まれ、地下室へと連行されていったのである。
エナンは見事な程に落ち着いており、両腕を取られて連行される際も、ゴルデンとはあくまでも
赤の他人同士である振りを通していた。
これに対して、ゴルデンは一切お咎め無しだったのが不気味である。
ゴルデンは、エナンの誘いで同じ人材仲介業者を通して、この屋敷に雇用された。
が、その事実は、どうやらグラッフェンリード側には伝わっていなかった可能性もある。
実際エナンが昨日、ゴルデン達を伴って人材仲介業者を訪問した際、ゴルデン達の偽造住民登録を、
あらかじめ精巧なものを用意して持参させていた。
つまり、このままゴルデンがエナンの正体について知らぬ存ぜぬを通せば、或いは彼に対しては、
エナンの仲間であるという嫌疑をかけられる事は無いかも知れない。
しかしエナンの身の安全も、心配ではあった。
(このまま、一人で潜入工作を続けられるものかどうか・・・)
邸外の少し離れたところでは、リグが監視の目を光らせてくれているとは言うものの、邸内までは
さすがに目が届かないであろう。
となると、もうゴルデン自身の判断で動かねばならない。
(やれやれじゃな・・・こう次々と先手を打たれては、どうにもならんわい)
内心ぼやきつつ、しかし何か行動を起こさねばという妙な焦燥感ばかりが沸いてくる。
そんな事を頭の中でぼやいていると、扉をノックする音が響いた。
早くも、使用人としての仕事が舞い込んできたのかと応対に出てみると、廊下に立っていたのは、
サラザールであった。
まだゴルデン自身は会った事が無かったが、ガルシアパーラとルーシャオに教えられていた人相を
頭の中で思い浮かべると、どう考えてもサラザール本人以外には有り得なかった。
「おい新入り。仕事だ。ちょっと地下室まで来てもらおう」
どこか陰鬱とした表情のサラザールの言葉に、ゴルデンは言いようの無い嫌悪感を覚えた。


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