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曇り空が朝陽を鈍く遮るある日の早朝、オランのさる高貴な家系の使いと名乗る男が、グロザムルの
山岳小都市アズバルチの三軒ある冒険者の店の一つ『水鏡亭』に、豪華な化粧箱に収められた、巨大な
牡牛の角をかたどった純銀製の室内装飾品を持参し、三日後に訪れる予定になっている別の使いに、
この角型の装飾品を手渡すように言い残して、そのまま慌てて去っていった。
その男は、ほとんど一方的に話を押しつけ、挙句逃げるようにして店を後にした為、事情を聞き出す
余裕も与えられないまま押し切られてしまった。
負傷した主人タイロン・キャロウェイに代わって店を切り盛りする冒険者達は、扱いに困ってしまった。
どういう形であれ、預かる羽目になってしまった以上は、責任を持って保管しなければならない。
化粧箱の中には、預かり料としてガメル銀貨が五百枚程度、麻の小袋に詰め込まれて一緒に入っていた。
ここまではまだ良かった。
問題は、この後発生したのである。
角型の装飾品とガメル銀貨入りの麻袋が、化粧箱ごと、何者かに持ち出され、行方不明となったのだ。
無理矢理押し付けられた格好で置き去りにされた品だった為、水鏡亭には直接の不備は無い。
しかし、他人からの預かり物をこうもあっさり紛失するというのは、店の信用に関わる問題であろう。
もし三日後に受け取りに現れるという別の使いが、この事実を知ったらどうなるか。
タイロン・キャロウェイにとっては、傷の痛みよりも、この問題から起因する頭痛の方がつらかった。
既に一日が経過している以上、猶予は実質、後二日しか残されていない。
キャロウェイと、店で働く冒険者達は、自身に被せられるであろう濡れ衣から逃れる為に、化粧箱の
行方を追う必要に迫られた。
ところが、意外な展開が彼らを待っていた。
ソルドバス家が自己資産で設立している街の官憲隊が水鏡亭に乗り込んできて、紛失した例の装飾品は、
その中にユニコーンの角が隠された禁制品だったというのだ。
驚いたキャロウェイ達ではあったが、アノスから派遣されてきたという神殿警察所属の捜査官は、彼らを
重要参考人として出頭するよう要請してきた。
話がきな臭い方向へと傾きつつある中、件の化粧箱が、パエンタ湖のほとりで、遺体と共に発見された、
という連絡が飛び込む。
しかし、その中身は何者かが持ち去った後だったらしい。
疑惑の目は、化粧箱の内容を知っている者達に向けられ始めた。
もちろん、キャロウェイと、水鏡亭で働く冒険者達も、その例外ではない。

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