河
先に、鬱陶しいのを掃除してしまおう。 という事で話がまとまり、接近戦を担当する事になったイーサンとカッツェは、 ミシェルがパルスキャノンで学習体を牽制している間に、まずジョーウェポンを 最初に始末し、次いで学習体の討伐に当たるという手順を確認した。 学習体はライカンディロス製セルティックモデルだという説明があったのだが、 イーサンとカッツェには、それが一体どういうものであるのか、という事までは よく分からない。 ただ、火力と耐久力に優れ、少々骨が折れる相手だという話であった。 『カッツェは、僕の後ろだけを守ってくれれば良い。基本的に鮫をやっつける 作業は僕が担当するから』 『はぁい』 少年盗賊の返事を無線経由で擬似聴覚から聞き取ったイーサンは、ミシェル機に 軽く頷きかけてから、AH323のハイドロジェットでも追いついてこれる 程度に速度を落として、岩陰からハザード河沿いの河原へと、AHXの巨躯を 飛び出させた。 右手にパルス機関砲を、左手にプラズマブレードを携え、中距離戦と接近戦の 双方に対応出来る格好で、二体のドレイクドールはジョーウェポンが遊泳する 新造堰付近に急接近していった。 案の定、こちらの存在に気づいた鮫の群れから、凝縮水圧波が立て続けに数発、 驚く程の正確な照準を定めて放たれてきた。 イーサンとカッツェはそれぞれ錐揉み状に回転しながらこれらをかわし去り、 一気に間合いを詰めてゆく。 二人の軌道が安定した直後に、パルスキャノンから射出された巨大な閃光状の 弾丸が、二体のドレイクドールの間を縫うようにして、学習体目指して飛来する。 ジョーウェポンの掃討には、さほどの時間を要しなかった。 AHXの優秀な性能のみならず、ドレイクドールの操作に驚異的な適応力を持つ イーサンの戦闘技術が、水中における鮫の機動能力をすら上回ったのだ。 ベースが水棲生物である筈のジョーウェポンであったが、本来陸上戦闘用に 開発されたドレイクドールに遅れを取るなど、普通では考えられない事である。 もちろん、イーサンが前面の敵だけに全力を集中する事が出来たのは、背後に カッツェの支援があったからに他ならない。 後方に回り込んで、凝縮水圧波による奇襲を試みようとするジョーウェポンの 意図を事前に察知し、パルス機関砲で早め早めの牽制を加えている。 この辺の支援感覚は盗賊特有の長所でもあり、カッツェはその能力を余す所なく 発揮していると言って良い。 好位置を得られないジョーウェポンは、仕方なくイーサンの側面から前面付近に 戻る事を余儀なくされ、その都度AHXの正確な攻撃によって、全身を蜂の巣に されるか、斬り刻まれるかして、壮絶な最期を遂げている。 やがて鮫集団の掃討が終わり、いよいよ残すは学習体セルティックモデルのみ、 という段階に至った。 この直前、ミシェル機にドルフから連絡が届き、魔法の絨毯を駆る冒険者達が、 救助活動に向かった旨が知らせられた。 『仲間達も頑張ってるみたいね。こっちも負けてらんないわよ』 ミシェルにはっぱをかけられるまでもなく、イーサンとカッツェは学習体をどう 始末するかだけを考え、水中戦第二ラウンドに入ろうとしていた。 しかし、先にも述べたように学習体セルティックモデルは抜群の耐久力を誇る。 ジョーウェポンと同じ感覚で当たれば、しっぺ返しを食う事になるだろう。 ディバース候からの直接の救助活動要請を受けたクレット、ミレーン、そして エルクの三人は、再び空の人となり、オラン市内を低空で飛び回る事になった。 前述した通り、この魔法の絨毯の総搭乗可能人数は、せいぜい30人程度である。 数万を数えるオラン市民を、全て避難させる事はまず不可能と考えて良い。 この点はディバース候も十分に承知しており、だからこそ、出来る範囲に絞って 救助活動に動いて欲しい旨を、三人に言い含めていた。 幸い、この救助活動にはAH323を駆るラガト隊長も同行する事になった。 必要ならば彼が家屋ごと避難民を移動させ、激流発生の予測ポイントから離れた 位置へ、人々を誘導する事も可能である。 家屋の屋根や、比較的大きな建物の上層階に避難している市民に対しては、まず エルクが遠隔から声をかけて、注意を促す手筈を取った。 これには風の精霊力を用いる精霊法術を利用するのだが、通話対象が異なる度に 法術を仕掛け直す必要がある為、結局のところ、エルクが注意を呼びかける事が 出来たのは、ほんの数える程度に過ぎなかった。 しかし、ラガト隊長のドレイクドールに対しては、常に通話路を一つ設けている。 よって水上を走るラガト隊長との意思疎通には、全く問題は無かった。 そんな最中、フェン機がクレメンス邸方面からハザード河沿いに南下する姿が、 上空から確認する事が出来た。 恐らく、下流の新造堰に向かうところであろう。 『あの状態では、戦力になるかどうか。むしろこっちを手伝って欲しいぐらい なのですが・・・』 ラガト隊長の呟きを、エルクは尤もだと思いながらも、しかしフェンの性格を 考えれば、救助活動に加わる事もないだろうという予測も立てていた。 |