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冒険者達は、二手に分かれて遺跡内部を探索する方向で、意見の一致を見た。
当初の目的であるクリスタナ組捜索には、リグ、ゴルデンに加え、二人からの要請によって、
キャロウェイとガルシアパーラもこの方面に動く事となった。
逆にテオ、ルーシャオ、フォールスら三名は、負の精霊力の正体を探る為に動く。
ゴルデンが所持している見取り図は、既に現在の位置付近については全く描かれていないのだが、
大体の方向と距離は、キャロウェイの長年の経験によって測る事が出来た。
実際、この円形の小部屋に至るまではほとんど一本道だった為、さほどに注意していた訳では
なかったのだが、リグが盗賊としての屋内感覚をフルに発揮して、見取り図の書き足しに一役
買っている。
「鳳石の方角は、単純に直線方向だけを見れば、ここから北西に向かう事になるな」
リグがゴルデンの見取り図に追加絵図を書き込んでいるところに、キャロウェイがその頭上から
覗き込んで意見した。
素早く反応したリグは、地図のその方面のおおよその位置に、鳳石、と一言メモを入れる。
「大体こんなとこかな・・・」
仕上がった見取り図をゴルデンに返却しつつ、リグはキャロウェイとガルシアパーラに振り返った。
再捜索に向けてようやく冷静さを取り戻したガルシアパーラではあったが、その表情は相変わらず、
どこか不安げであった。
「また、あんなのが出てきたらどうするんだ?」
「・・・ま、接近戦はやらん方が賢明じゃろうな」
弱気な発言に終始するガルシアパーラを、ゴルデンは適当にあしらった。
まともに相手をする気にもならないというのが、正直なところだろう。
「風の精霊力はほとんど期待出来ないから、遠隔での通話は出来なくなる。健闘を祈る」
フォールスの言葉はどこか他人事のような響きさえ伴っていた。
こういう場合、彼のような第三者的な意識と冷静さが、特に必要となってくるのだが、本来その
役目を負う筈の魔術師ルーシャオは、どちらかと言えばそういう精神操作が苦手な方であった。
やがて、二組に分かれたチームはそれぞれが向かうべき通路へと足を踏み入れていく。
クリスタナ組捜索チームは、北西に最も近い側の通路から、そして負の精霊力探索チームは、
フォールスの精霊感知によって、負の精霊力の波動が一番強く感じられる南向きの通路へ向かう。
だが実際のところ、フォールスが感じている負の精霊力の最も強烈な発生源は、考えにくい事だが、
自分自身を含む彼ら冒険者達だったのである。

しかしフォールスは、それが自身の感覚の狂いからきている結果である可能性も考慮して、安易に
その事実を口にするような真似は控えていた。
遺跡全体を支配する不気味な波動が、彼の精霊感知にも影響を与えているかも知れなかったからだ。
フォールスのそんな判断は、妥当と言えば妥当であろう。
無用に混乱を招くのは、チームの崩壊の原因にもなりかねないのである。
だが、彼のそんな思慮深さをあざ笑うかのように、恐るべき変化がテオの肉体に生じ始めていた。
最初に気づいたのは、矢張りフォールスであったが、テオにその現象を告げたのは、泣きそうな
表情で声を震わせているルーシャオだった。
傷を負いながらも、その肉体の頑健さから自ら盾と自負して先頭を行くテオのすぐ後ろに位置し、
しなやかな筋肉に覆われた彼の上腕部を間近から眺める事が出来たルーシャオは、テオの皮膚に、
あり得べからざる変化が生じている事に、戦慄を覚えた。
「テ、テオ・・・君の、その腕・・・・!」
「ん?どうかし・・・」
不審げな表情でルーシャオに振り向き、次いで自らが掲げる松明の光で自分の二の腕を見た時、
テオの端正な面は見る見るうちに凍りついた。
更に詳しく述べるならば、テオの面それ自体にも、恐るべき変化があらわれていた。
「なんだ、これ・・・!」
異様であった。
テオの剥き出しになっている二の腕の表面は、まるで死体のように白く強張り、痣のような黒い
斑紋が、うっすらと浮かんでいるのである。
内心フォールスは舌打ちを漏らした。
テオの肉体から放たれる負の精霊力が、今まで以上に強くなっているのである。
もちろん、生命の精霊力の方が遥かに強いのは言うまでも無い事なのだが、もしこのままいけば、
やがてこの二つの勢力が逆転する可能性も否定出来ない。
二の腕と同様、紙のように真っ白な肌へと変じているテオの面にも、うっすらと死紋が浮かび始め、
オリーブ色だった瞳も、どこか濁った色合いを含み始めていた。
「テオ、自分の体に何か変化を感じないか?」
「いや・・・ただ、全身がぎしぎしと痛むような感じで筋肉が強張るような感覚はあるけど」
それは、先のネッロとの戦いで受けたダメージによる影響だとばかり思い込んでいた。
が、フォールスは矢張り相変わらずの無表情さで、冷酷な裁判官のように断じた。
「恐らくそれは、死後硬直だな」

あまりにも信じられない宣告に、テオは一瞬我を忘れた。
「そんな馬鹿な・・・!だって僕は、現にこうして生きて動いて・・・」
言いながら、テオは松明を小脇に抱えて、右手の親指で左手首にそっと触れてみた。
その時に彼が浮かべた驚愕と恐怖の表情を、ルーシャオは震える思いで眺めるしか出来なかった。
「脈が、無い・・・」
「もうそんなに進行しているのか。しかしまだ生命の精霊力の方が強い。お前はこの時点では、
  れっきとした人間だよ」
フォールスのそんな言葉は、何の慰めにもならない。
現に、テオの肉体は徐々に死後の状態へと遷移を止めないのである。
これを阻止する手立てを見つけない限り、テオに安心せよという一言を放つのは、無責任だろう。
テオの優秀なところは、自分自身のそんな恐るべき変化にも関わらず、冷静さを保って、更に
探索を続けようという意思を持っていた事であった。
「ゴルデンの治癒の法力が逆に傷となって効果をあらわしたのは、僕自身が負の精霊力によって
  支配され始めていたからか」
再び、真っ暗な通路を歩き出したテオは、決して諦めた訳ではない。
彼は現実を受け止めるだけの精神力を持っている上に、何としてでも助かるという希望を持って、
生への執着を捨てない事に全神経を注いでいたのである。
そういった精神の動きが、却って彼に不思議な程の落ち着きを与えた。
「ネッロがどの程度の時間を経てああなったのかは分からん。しかし少なくとも、モイセス達は、
  半日以上早くこの遺跡に入っている。完全な化け物に落ちぶれるまでには、まだ数時間程度は
  あると見て良いだろう」
「そう願いたいね」
面だけを巡らせて振り向き、そう応じたテオだったが、彼の澱んだ瞳の奥では、また別の驚きが、
静かに浮かんでいた。
松明の光の中で、ルーシャオにも同様の変化が生じ始めていたのである。
尤も、テオとは違って、その進行度合いは比較的緩やかであると言って良い。
何が原因かは分からないが、テオとルーシャオとでは、負の精霊力の勢いが異なるようであった。
しかし、フォールスはある仮説を立てていた。
「多分ネッロから受けた打撃による負傷だな。あれが負の精霊力の勢いを増大させたんだろう」
別段これといった確証がある訳ではなかったが、テオも何となくその仮説に同意した。

対して、クリスタナ組捜索チーム側は、フォールスのように精霊力の変化を知る手段が無い。
にも関わらず、彼らが負の精霊力の増大が自分達の肉体内で生じている事実を知ったのは、
ガルシアパーラの突然の変化によってであった。
この無能な、と言い切って差し支えの無さそうな三流冒険者は、自身の肉体をもって、仲間達に
危機の接近を悟らしめたのである。
「おぬし、一体どうしたんじゃ!?」
突然背後からキャロウェイに襲いかかったガルシアパーラを、ゴルデンとリグが力ずくで押さえ込み、
冷たい石床に組み伏せたのだが、その際にゴルデンが覗き込んだガルシアパーラの容貌というのは、
まるで信じられない程に変貌していた。
一言で言えば、狂気に歪んだゴブリンの顔面を、そのまま移植したような、実に凶悪な顔だった。
何かに取り付かれたかのように暴れ倒すガルシアパーラを、何とか全身で押さえ込むのが精一杯、
といった様子で、ゴルデンとリグが必死に組み伏せていた。
その際、二人が感じた不気味なまでの冷たさは、ガルシアパーラの肌から発せられていた。
死体のような冷たさであった。
「一体、何が起きたというんだ!?」
まるで訳が分からないといった困惑の表情を浮かべつつも、キャロウェイは手早く取り出した縄で
ガルシアパーラを縛り上げた。
後ろ手に両手首を戒め、更に両足首も堅く縛り上げた為、ゴルデンとリグはようやく、組み伏せの
姿勢から解放されたのだが、三人とも、ガルシアパーラに何箇所か噛まれてしまい、血が滲んでいる。
「やれやれ、こんな時こそ治癒の法力の出番なんじゃがのう」
ゴルデンはぼやいてみせたが、テオの時のように、負傷を拡大させるだけの結果に終わる事を恐れ、
敢えてこの場では法力の行使を控えた。
「ねぇ、こいつどうする?」
あからさまに迷惑げな感情をもって、リグはガルシアパーラを眺めた。
本音を言えば、このまま放置していきたいところだが、水鏡亭主人のキャロウェイは決してそうは
しないであろう事も心得ていた。
事実、キャロウェイは自分がガルシアパーラを担いでいくと言い出した。
これで無駄に戦力が一人分欠けてしまう事になる。
再びあのネッロのような化け物に襲われた時、どう対処すべきか。

思わぬ展開を迎えた。
先頭を進むリグの視界の中に、この古びた上に不気味極まりない遺跡内部で、最も似つかわしくない
可憐な姿が飛び込んできたのである。
ランタンを掲げたその姿は、丁度リグに形の良い尻を向けて、通路の角に佇んでいた。
その外見的特長から、リグはすぐにその人物がクリスタナ本人である事を悟った。
革鎧と長剣という基本装備に身を包んではいるが、太股や二の腕などが剥き出しになっているなど、
いささか肌の露出が多いのは、彼女の活発過ぎる性格によるものだろうか。
ブロンドの髪や白い肌が土埃で薄汚れてはいるが、さほど疲れた様子も見せず、しっかりした足取りで
遺跡内を歩き回っていた印象があった。
「クリスタナ!」
キャロウェイの呼び止める声に、ソルドバス家の美貌の令嬢は一瞬驚いた表情を見せたが、止めた足を、
元気に励まして、キャロウェイ達のもとへと駆け寄ってきた。
「おじさん!どうしてここに!?」
「どうしてもくそもあるか!この馬鹿者が!」
どこか幼さが残る面の美少女に怒声を浴びせつつも、キャロウェイの面には安堵の色が滲み出ている。
が、クリスタナは近くまで駆け寄ってきて、不意に足を止めた。
明らかに怯えの表情が、その大きな瞳に宿っている。
彼女の足を止めさせた原因が、ガルシアパーラにある事は、リグとゴルデンにはすぐに分かった。
「ねぇその人・・・まさか・・・」
「ああ、こいつはうちの客だ。今ちょっとおかしな事になってるが、大丈夫、心配無いさ」
クリスタナをなだめるように優しく微笑むキャロウェイだが、しかし美貌の少女の心に芽生え始めた
恐怖には、何か別の、確信めいたものが根ざしているようにも思われた。
「おじさん、その人、危険よ・・・悪い事は言わないから、すぐに放り出した方が良いよ」
彼女は何か事情を知っている。
少なくとも、リグとゴルデンはそう判断した。
「それはどういう事かいな?おっと失礼、わしはゴルデン。水鏡亭に寝泊りしてる冒険者じゃよ」
赤ら顔のドワーフに続いて、リグも簡単に自己紹介を済ませ、ここまでの経緯を手短に語った。
キャロウェイ達が、自分達を探す為に行動している事を知ったクリスタナは、相変わらず警戒の念を
隠そうとはしなかったが、申し訳無さそうに頭を下げた。
単にやんちゃなだけではなく、思いのほか素直な女性であるようだった。

だが、状況は更に深刻である事を、クリスタナによる説明から思い知らされた。
彼女の冒険仲間であるフロリスとゲルダという二人の神学校生徒は、それぞれ脚と腰に負傷を抱え、
満足に歩ける状態ではないのだという。
念の為、ゴルデンが負傷の理由と程度を聞いてみた。
「フロリスは鳳石の崖を降りる時に、足を踏み外して遺跡の入り口になっている踊り場に落ちて、
  その時に腰を強く打ったの。ゲルダは、ほんのついさっきなんだけど、突然現れた化け物に
  襲われて、膝の辺りを噛み砕かれちゃって・・・応急処置はしてあるけど、早めに治療しないと、
  大変な事になるわ」
「化け物?」
ゴルデンの興味は、今度はクリスタナが語った『化け物』という響きに移った。
更によくよく聞いてみると、ネッロと同様、かつては人間だったと思しき不死族の魔物の可能性が
極めて高い事が分かった。
「その外観から察するに・・・恐らく、デスモンドかマメットのいずれかじゃろ」
「・・・だね。モイセスの行方が分からないのも気になるけど」
ゲルダを襲ったのが、ネッロと同じく不死の怪物へと変貌したモイセスの部下の誰かであるという
推測には、ゴルデンもリグもほとんど確信に近い自信を持っていた。
問題は、残る二人が、今どこで、どういう状態にあるのか、という点だが、ゲルダを襲ったその
怪物の行方も確かめねばならない。
「それでクリスタナ、お前は一人で何をやってたんだ?」
「ゲルダを傷つけた怪物を追いかけてたの。ゲルダは酷い傷を負ったけど、あの化け物もそれなりに
  ダメージを受けた筈だから、とどめを刺そうと思って」
思った以上に強気で行動力に富んだ令嬢である事が、彼女の説明からもよく分かった。
これはひょっとすると、ガルシアパーラなど足元にも及ばない程の戦力になるかも知れない。
ここでふと、リグは率直な疑問を抱いた。
「ねぇ、お姉ちゃん達が鳳石の崖からこの遺跡に入った時、凄い音がしてなかった?」
「音?いいえ、全然何も聞こえなかったけど・・・」
言いよどんだクリスタナの歯切れは悪い。
更に追求すると、彼女の口から、驚くべき情報が語られた。
「探索してみて分かったんだけど、この遺跡には、音に負の精霊力を乗せて、侵入者の肉体を蝕む、
  っていうとんでもない罠が仕掛けてあるらしいの。それが、どこで発動するのかは、さすがに
  分からなかったんだけど」
キャロウェイ、リグ、ゴルデンの三人は、思わずあっと声をあげそうになった。

クリスタナは、自分達を襲った化け物が、音に乗った負の精霊力によって不死の怪物と化した
元人間である事を、何となくではあったが、既に察していた。
その化け物としての特徴が、現在のガルシアパーラと極めて酷似している事が、彼女の怯えとして、
美貌にあらわれているのだろう。
「この遺跡は、正確には巨大な地下墓地だったらしいわ。古代王国期にここに埋葬されたのが一体
  どういった人々なのかは分からないけど、少なくとも今現在、この遺跡墓地の中には、現世への
  強い恨みを抱いた死霊が渦巻いていて、例の音の罠も、その死霊達が、負の精霊力を最大限に
  発揮する事で仕掛けられているらしいの」
「よく、そこまで調べられたものだ」
キャロウェイが素直に感心すると、クリスタナは形の良い唇に小さな舌を出して悪戯っぽく笑った。
どうやら、受け売りらしい。
彼女が語った事実を突き止めたの人物は、どうやら別に居そうである。
「詳しく知っているのは、誰なんじゃ?」
「レイ・クラウザーって人。あたし達よりも先に、仕事だとか言って、この遺跡に入ってきてたわ」
ゴルデンは軽い驚きを覚えた。
あの美貌の戦士が、再び自分達の行く手に絡んできているとは、予想外だったのだ。
「そう言えばあの御仁、仕事がどうとか言うておったなぁ」
「あら、知ってるの?」
今度は逆に、クリスタナがゴルデンの口ぶりに意外そうな表情を浮かべた。
この時、不意にガルシアパーラが獣のような唸り声を漏らしたが、キャロウェイがその豪腕で
しっかり押さえつけているという安心感からか、クリスタナもかなり落ち着いてきている様子だった。
「今、レイ・クラウザー殿はどこに居るか分かるかの?」
「さぁ、そこまでは・・・本人も、まさかこの遺跡にまた入ってくる必要があるなんて、って、結構
  意外そうな様子だったけど」
だが、今の段階でレイ・クラウザーがこの遺跡内に居る事は、ほぼ間違い無さそうである。
あの人物は確か、愛用の魔装具で、遺跡内にはびこる不死の魔物を滅ぼす事が出来ると豪語していた。
うまくいけば、手を借りる事が出来るかも知れない。
「しかしとにかく今は、クリスタナが追っているというその化け物と、フロリス、ゲルダ達の救出の
  いずれかを優先させないといけないな」
キャロウェイの意見も、尤もである。

一方、負の精霊力の発生源を突き止めるべく行動していたテオ、ルーシャオ、フォールスらの前に、
意外な痕跡が出現していた。
「何だ、これ・・・」
思わずテオが、呆然と呟いた。
恐ろしく広大な空間が広がっているそこは、無数の墓碑が並ぶ地下埋葬場であった。
単にそれだけなら、彼らとて驚いたりはしない。
問題は、その地下埋葬場のそこかしこに、汚らしい布きれが山のように積み上げられていたり、
或いは食い散らかした跡のような生ごみが、そこかしこに放置されている事であった。
もしここに、何らかの知的生物が(それも余程知能程度が低いと思われる)大集団で生活している
という事実があれば、これらの状態は簡単に頷ける。
では、一体何者がここで起居しているというのであろうか。
「モイセスさん達・・・じゃないですよね。どう考えても規模が違うし、そもそもこんなにも
  汚らしい生活状態は、人間にはとても耐えられないと思います」
やや青ざめた表情で分析するルーシャオだったが、その傍らでじっと無表情を貫いている精霊使いの
脳裏では、既に回答に近いものを得ているようであった。
「この遺跡に来る途中、ゴブリンの大集団と遭遇したな」
フォールスの低い声音に、テオとルーシャオは驚きにも似た思いで振り向いた。
「まさか、と思うだろうが、可能性は極めて高い」
ネッロのように、僅か半日で人間が不死の化け物と化してしまうような環境で、ゴブリン達のような
下等な知的生物が、普通に日常を送る事は可能なのだろうか?
「少なくとも、ネッロや僕達は、同じルートを通ってこの遺跡に入って、同じように負の精霊力による
  支配を受けようとしている。でも、あのゴブリン達には、そんな様子は微塵も無かった・・・」
「或いは、鳳石の他に、別の出入り口が隠されている可能性は無いか?」
テオの言葉を半ばさえぎるようにして、フォールスは新たな仮説を立ててみた。
無論、有り得ない話ではない。
彼らはまだ、例のあの大轟音が、負の精霊力を人体に吸収させる恐るべき罠であった事を知らない。
しかし、今回の異常が関与している事は、薄々感づいている。
だからこそフォールスは、別ルートの存在について、思案を巡らせ始めたのである。
「あのゴブリン達は、またここに戻ってくるかな?」
「分からんが、可能性はあるだろう」
となると、この遺跡内はどこよりも最も危険な場所であるという結論に至る。


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